板橋町宿場

板橋町宿場は東京府北豊島郡板橋町に在つて、山手線板橋駅から北へ約三丁、市電巣鴨終点から乗合自動車で行けば、下板橋で降りる。賃六銭。

板橋は中仙道の関門で、昔は東京と全然独立した宿場だつたが、今では完全に東京と町続きに成つて、行政上に於てこそは分離して居る様なものゝ、事実に於ては完く東京市内と殆ど異る処は無い。妓楼は町に散在して居て、今だに宿場の儘に成つて居る。建物も古風な格子造りで、宿場気分の旺溢して居る処が悦しい。妓楼は十二軒あつて娼妓は全部で九十八人居るが、山形県の女が最い多く、次は此の近県の女である。店は陰店を張つて居て娼妓は全部居稼ぎだ。遊興は時間制もあれば廻し制もある。費用は一時間遊びが最低一円から二円位迄で、引け過ぎからの一泊は二円位である。御定りは二円五十銭位で台の物が附く。芸妓も五十人は居るらしい。妓楼は、岡部、千代間、新藤、千代本、早野、中島、今泉、藤万、柏木、伊勢本、藤武蔵、川越の十二軒である。全部廻し部屋で本部屋は無い。安い遊びをすると割床等に追ひ込まれる事がある。