木更津新地廓

木更津新地廓は千葉県君津郡木更津町字木更津新地に在つて、房総線木更津駅で下車して西北へ約八丁、乗合自動車の便もある。

木更津は上総西海岸第一の繁華地で、日本武尊が東征の折、橘媛を海神の為めに犠牲に供し悲しさの余り此の海岸をさまよふて、暫し立ち去り兼ねたと云ふ処から「君去らず」と名附けられたのが地名の起源で、茲の海岸に在る吾妻神社は橘媛を祀つたものである。明治九年頃から町の東端なる「恋の森」に在つた遊廓を、明治廿三年に現在の個処に移転したものである。東京の遠征客も時々迷ひ込む模様である。店は陰店を張つて居て、娟妓は居稼ぎ制で送り込みはやらない。遊興は廻し制で通し花は取らない。費用は甲が五円、乙は四円丙は二円で各台の物が附く事に成つて居る。本部屋は無い。娟楼は、一京楼、本京楼、新鈴木楼、旧鈴木楼の四軒だ。芸妓の玉代は二時間一座敷で二円六十銭、木更津甚句「あゝ抱いて寝もせず、暇もくれず、此れじや港のヤツサイ、モツサイ ヤレコノドツコイ、コリヤーーつなぎ船ドシヨコメーー」