銚子町松岸遊廓

銚子町松岸遊廓は千葉県海上郡松岸(まつぎし)三十九番地にあつて鉄道は総武線銚子駅の一つ手前の松岸駅で下車し駅から四五丁、利根川畔に沿ふて居る、又佐原町から蒸汽船を利用して利根川を下り松岸で下船する事も出来るが、後者の方は遊山気分を味ひながら渺茫たる流水を下る気分は全く形容し難い絶景である。佐原より松岸迄賃八十八銭、昔は眺子往来の人々は、この河岸から揚り又利根の水路が江戸と常総方面とを結びつける唯一の交通線であつた時代、松岸は最終港だつたので当時は非常に繁昌して居たものであるが、未だ気分だけは残つて居て、芳流閣、龍宮城等言ふ様な大きな立派な妓楼のあつた所以である。現在は引手茶屋八軒、妓楼二軒、娟妓四十人位居る。遊興制度は古襲を踏んで全部引手茶屋から送り込む事に成つてゐる。全部廻し制で三枚通し五枚通しと言ふ遊び方をして居る、三枚通しと言ふのは一人の客が三人の娼妓を呼んで自分の選んだ一人を奥方の格式で取扱ひ残りの二人は女中格として働く仕組である。

之の場の玉代は選ばれた人のを本玉と言ひ一円で、残りの二人は空玉と言ひ五十銭である。即ち三枚通しなら合せて二円となる訳である。又芸妓を呼んでも空玉と同じ値段である。其他席料六十銭酒肴代二円五十銭、即ち三枚通しで遊ぶのが普通で全部で五円十銭位となり割合に高くなる訳であるが、之の地の独特のもので風変りな又古風を踏襲して居る面白い特異性がある。玉の切替は一日二回、午後六時と午前六時と言ふ事になつて居る。外に御定りと云ふのがあつて、松五円、竹三円五十銭、梅一円九十五銭と云ふ遊び方もある。之の地の特有の民謡は「大漁音頭」で廓の名物、娼妓が大抵踊る一組は二十余名芸妓が歌ひ、一組代料金十円位、之の組が銚子方面へ行つて興業する事もあると言ふので、踊ばかり見ても差支へはないのだ。松岸情調、利根の河畔に突出して居るので四方に水をめぐらして浮島の様な感じがあり、利根の暁色夏の夕月渚は蘆に包まれ青々とした。其の水郷の情調は全く此の廓のみの持つ特色である。妓楼は第一開新楼、第二開新楼の二軒。

「松岸名高い、投け盃は、親の意見も、止められぬ」