新郷村中田遊廓

新郷村中田遊廓は茨城県遠島郡新郷村字中田(なかだ)に在つて、東北本線栗橋に下車して東へ約十五丁、乗合自動車は中田で下車する。

栗橋は利根川の岸辺に在る町で、今は河川工事が出来上つたから氾濫の憂ひは無いが、元は善く洪水騒ぎの在つた処である。駅の前には静御前の墓があり、中田には光了寺があつて静の遺物が残つて居る。中田遊廓は幕末の頃から在つたもので、大正十三年に利根川橋が架設されてからは非常に便利に成り、右岸の者は渡しに乗る必要が無く成つて、今では栗橋遊廓の観がある。目下貸座敷が八軒あつて娼妓は三十五人居る。娼妓は東北地方及近県の女である。店は陰店を張つて居て、娼妓は全部居稼ぎ制である。客の廻は取つて居る。通し花は取らない。費用は御定り甲四円、乙二円で税が含んで居り台の物も附いてゐる。本部屋はない。娼楼は琴吹楼、新喜楼、中俵楼、俵楼、仙台楼、静恵楼、松葉楼、福壽楼等である。芸妓の玉代は一時間一円である。