平塚遊廓

平塚遊廓は神奈川県中郡平塚町字平塚に在つて、東海道本線平塚駅の西北約十丁の地点に在る。乗合自動車豊田道で下車すれば直ぐである。

元来平塚町は、東海道五十三次以来の古い宿場であつて、土地に大きな塚がある事に依つて此の名が起因して居る。元は宿場の飯盛女で、十返舎一九の膝栗毛に愛嬌を漂はした処であるが、最近に遊廓と成つたものである。目下は何処も彼処も写真式か陰店式に成つて終つたのに、而も茲は大東京の玄関に近い処であるにも拘らず、依然として古風な吸付煙草で張店を行なつて居る。目の覚めるやうな御揃ひの裲襠(うちかけ)をひつかけて、ずらりと打ち並んで居る様は可成奇観であつて、微か乍らも大江戸時代の華かさを忍ばされるものがある。現在妓楼は十二軒あつて、娼妓は全部で百二十人居る。本部屋としての設備は無いが本都屋と廻し部屋との中間の様な設備に成つて居る。遊興は総て時間制で全部を引くるめての最低遊興費は一時間一円八十銭で、最高三円五十銭位である。十一時過ぎから翌朝八時頃迄なら五円乃至七円位な物である。芸妓も呼べる。一時間の玉代が六十銭である。娼妓の遊興費は少々高い様に思はれるが、廻しを取らない為いだらう。平塚民謡ホックリ節

「相州平塚(ヨイナ)ツリ〃おいも(ホラエ)

一度帰せば〃又ほれる(ほつくり〃〃ヨワラ火でホックリ十三里)

妓楼は、福岡、新笹、旭、相模、東、平田、京友、武蔵、金鱗、第二松栄、蛭子、第一松栄の十二軒。