大曲町遊廓は秋田県大曲（おおまがり）町字八幡町に在つて、奥羽本線大曲駅で下車する。
大曲は御物川と丸子川との合流点に在って、昔は河港として物品の集散地だつたが、鉄道開設と共に船楫は衰た。附近には周囲四里の田沢湖があって、風景の非常に善い処が多い。日本でも珍しい桶状陥落湖で、地質学者や理学者達が時々研究の為めにやって来るさうだ。水の清い事は世界一である。水の深い事は世界第二であるさうだ。遊廓は明治十四年に許可されたもので、現在貸座敷が八軒あって、娼妓は三十五人居る。秋田、青森県の女が大多数。店は陰店を張って居て、娼妓は居稼ぎ制、遊興は東京式の廻し制であるが客の好みに依って通し花も取る事がある。費用は御定り三円五十銭であるが、五円出せば料理が三品と上酒が二本附く事に成って居る。芸妓は二時間二円。妓楼は高砂楼、達摩楼、栄楼、石川楼、福見楼、後藤楼、万花楼、鶴田楼の八軒である。