船泊港遊廓

船泊港遊廓は天塩国礼文島船泊村に在って、稚内駅稚内港から海上二三浬の北方に当つて居るが、毎日数回稚内と船泊間の定期船船が出るので比較的便利である。海上約四時間。

周囲約二十里の島嶼故、完く浮世を離れた感があつて、土地の人々は皆人情が濃厚である。先づ北国の独特な島気分とでも云ふべきものだらう。「ほかに宝や名所もあれど、春の鰊に夏の昆布、沖にかもめの啼く声聞けば、礼文暮しが止めらりよか」と云ふ里謡を見ても其の大体を想像する事が出来やう。此処の遊廓は私娼の風紀を取締る為めに、明治三十年頃に出来たもので、目下貸座敷が三軒あって娼妓は十一人居るが、全部北海道の女である。中には二枚鑑札の女も居る。店は陰店を張って居て居稼ぎ制、客の廻しは取って居る。御定りは四円五十銭で台の物が附く。鯉、鮒、蛯等が名産である。娼楼は鶴亀楼、常盤楼、栄楼の三軒である。