樺太地方

豊原町豊原遊廓

豊原町豊原遊廓は樺太豊原郡豊原町に在つて、樺太本線豊原駅で下車すれば西へ約十七八丁の地点である。円タクを奮発しても人力車を雇ってもよい。

豊原は樺太庁の所在地で、樺太第一の都会である。製紙工業の盛んな処で、各製紙会社の工場が沢山建つて居る。茲は非常に頽廃的な殖民地気分の濃厚な処で、其れは到抵北海道等の比では無い。しみヽと寒国気分を味はゝされるのも又樺太の地を踏んでからだう、何と云つても樺太は日本の北極だ。北海道迄来たら、何うしても一度は樺太に渡つて見る必要はある。現在此の遊廓には貸座敷が二十四軒あって、娼妓が百十八人居る。中には朝鮮婦人も居るが八割迄は内地の女である。店は張り店で、盛んに土地の人気を呼んで居る。娼妓は全部居稼ぎ制で送り込み制はやらない。本部屋は無く全部廻し制である。御定りは四円五十銭で一泊が出来、御銚子が一本付く筈である。妓楼は、いろは楼、富山楼、丸山楼、光和楼、のんき楼、新玉楼、福井楼、平壌楼、釣月楼、角海老楼、北越楼、天徳楼、豊敷楼、かどや楼、かく万楼、辰己楼、菊互楼、高砂楼、勇明楼、桔梗楼、作生楼、桃太楼等である。

真岡町遊廓

樺太真岡郡真岡町字台町に在つて、樺太西海岸線真岡駅で下車すれば西へ約十丁、駅からは乗合馬車の便がある。

真岡町は日本海に面した港町で、富士、王子、樺太等の大製紙工場が在るので町には非常な活気があって、金のめぐりも善い。北海道も寒国には相違無いが、樺太に這入らなけば真の寒国気分は味へ無い。此処の遊廓は大正十一年に創始されたもので、真岡町の中央背面の高台に在って、町の一部と渺茫たる海を眼下に見下して居るので、眺望は又格別である。店は張店で、恰も大正二年時分の吉原を髣髴せしめるものがある。現在貸座敷が十一軒あるが、十一軒共全部張店である。娼妓は約五十八人居るが全部居稼ぎ制で、送り込み制では無い。廻しは取る事に成って居るが、別に本部屋と云ふ程の設備は無い。御定りは甲乙丙共全部酒肴附きで、甲が五円、乙が四円、丙が三円である。其れに税が一円に付き六銭の割合で附加されて行く。勿論此の御定りで一泊出来る訳であるが、此の外別に一時間遊びと云ふ様な制度は現在の処では無いらしく、矢張御定りの金額を支払ふ事に成つて居るらしい。茲には芸妓は這入らない。けれども真岡節と云ふ里謡が娼妓間に盛んに唄はれて居る。娼妓の多くは北海道及東北地方の女である。真岡節

真岡好い所西比利亜受けてエンヤラホノホー

海の幸やら山の富

街の賑ひ見おろす丘にや

春は鈴蘭 白樺

秋ナー 秋は燃え立つ七がまど

エンヤラヤノヤー エンヤラヤノエンヤラヤノ エンヤラヤノホー

一か八かで渡って来たが エンヤラホノホー

こゝにも九がある らくがある

苦楽あれやこそ この世でござる

この世ならこそ居りもする

あの世ネ あの世願ふやうな年齢ぢやない

エンヤラヤノヤ エンヤラヤノエンヤラヤノ エンヤラホノホー

妓楼は吉米楼、角蛯楼、大正楼、信夫楼、惣万楼、笑福楼、都楼、東海楼、太田楼、一二三楼、武蔵楼等である。