真岡町遊廓

樺太真岡郡真岡町字台町に在つて、樺太西海岸線真岡駅で下車すれば西へ約十丁、駅からは乗合馬車の便がある。

真岡町は日本海に面した港町で、富士、王子、樺太等の大製紙工場が在るので町には非常な活気があって、金のめぐりも善い。北海道も寒国には相違無いが、樺太に這入らなけば真の寒国気分は味へ無い。此処の遊廓は大正十一年に創始されたもので、真岡町の中央背面の高台に在って、町の一部と渺茫たる海を眼下に見下して居るので、眺望は又格別である。店は張店で、恰も大正二年時分の吉原を髣髴せしめるものがある。現在貸座敷が十一軒あるが、十一軒共全部張店である。娼妓は約五十八人居るが全部居稼ぎ制で、送り込み制では無い。廻しは取る事に成って居るが、別に本部屋と云ふ程の設備は無い。御定りは甲乙丙共全部酒肴附きで、甲が五円、乙が四円、丙が三円である。其れに税が一円に付き六銭の割合で附加されて行く。勿論此の御定りで一泊出来る訳であるが、此の外別に一時間遊びと云ふ様な制度は現在の処では無いらしく、矢張御定りの金額を支払ふ事に成つて居るらしい。茲には芸妓は這入らない。けれども真岡節と云ふ里謡が娼妓間に盛んに唄はれて居る。娼妓の多くは北海道及東北地方の女である。真岡節

真岡好い所西比利亜受けてエンヤラホノホー

海の幸やら山の富

街の賑ひ見おろす丘にや

春は鈴蘭 白樺

秋ナー 秋は燃え立つ七がまど

エンヤラヤノヤー エンヤラヤノエンヤラヤノ エンヤラヤノホー

一か八かで渡って来たが エンヤラホノホー

こゝにも九がある らくがある

苦楽あれやこそ この世でござる

この世ならこそ居りもする

あの世ネ あの世願ふやうな年齢ぢやない

エンヤラヤノヤ エンヤラヤノエンヤラヤノ エンヤラホノホー

妓楼は吉米楼、角蛯楼、大正楼、信夫楼、惣万楼、笑福楼、都楼、東海楼、太田楼、一二三楼、武蔵楼等である。