浜松市二葉遊廊

浜松市二葉遊廊は静岡県浜松市鴨江町に在つて、東海道線浜松駅で下車すれば西へ約十丁の位置である。駅から乗合自動車の便があつて廓大門前で下車すれば宜しい。

浜松市は天龍川と浜名湖の中間に在つて、人口約七万、茶、楽器、浜納豆等の産地である。家康が武田氏と三方ケ原で戦つて、敗戦し、軍を退いたのが市の北端に在る此の浜松城跡であつた。浜松は其の名に相応はしい松の都で、ざゞんざの松、家康鎧掛の松、音羽の松、白山の松、五社の松、御胞衣の松、琴掛の松等の名松がある。大正十一年十一月、現在の遊廓に移転する迄は、昔のままの宿場気分を国道筋に漂はして居たものだつたが、現在では全部写真式の遊廊に改められて終つた。目下貸座敷が二十二軒あつて、娼妓は約三百人居る。此処の組合には面白い規定があつて直接従業者は全部女性でなければならぬ事に成つて居るので、完くの今「女護ヶ島」を形成つて居る事だ。

娼妓は全部居稼ぎ制で送り込みはやらない。客の好みに応じて時間制もやれば廻し制もやつて居る。一時間遊びは甲二円、乙一円八十銭、丙一円六十銭、御定り廻しは一泊三円八十銭、大引は午前二時から一泊廻し無し四円二十銭である。芸妓の玉代は一時間一円四十銭。此処には二葉音頭と云ふ踊りがあつて、娼妓が唄ひ、且つ弾き、且つ踊るのである。

「春の錦を二葉の里に

柳さ〃らの色〃らべ

粹なこゝろの花盛り

よい〃よい〃よいやさ」

「秋はまたよい二葉の廊

月夜からすが来るわいな

今も長者の声がする

よい〃よい〃よいやさ」

妓楼は、豊本楼、宝来楼、西野屋、糀屋、たからや、立花屋、駿河屋、駒屋、古清水、川崎楼、よねや、共栄楼、沢潟屋、島屋、紙屋、米米楼、美奈茂登楼、池田家、古清水支店、大阪楼、金波楼、甲州楼等である。