寺泊町遊廓

寺泊町遊廓は新潟県三島郡寺泊町に在つて、長岡鉄道寺泊駅から北方約十二丁、乗合自動車の便があつて、賃十銭である。

寺泊は県の海岸中央の要港で越佐連絡船の発着所である。「漠々と佐渡に横たゐふ天の川」と云ふ句のある様に、佐渡と向ひ合つた海岸は誠に景色が優れて居る。近年字年友町に温泉が湧出したので、俄かに人気が沸騰して、町は益々繁華に向ひつゝある。海水浴場、県立水産試験場、日蓮上人硯水の霊井、等がある。船人を相手とした私娼は、約七百年以前から居て、其れが明治初年娼妓に昇格してから、約七年間は宿場女郎式に散在して居たが、明治七年に現在の遊廓に移転して集娼制と成つたものである。貸座敷は五軒あつて娼妓は十人居り、全部新潟県の女計りである。店は陰店を張つて居て、娼妓は居稼ぎ制、遊興は「廻し」で、費用は二円乃至五円で一泊が出来る。芸妓は居ない。本部屋も無い。妓楼は再思楼、柳楼、美和楼、千歳楼、住川楼の五軒である。