金沢主計町遊廊

金沢主計町遊廊は石川県金沢市主計町に在って、北陸本線金沢駅下車市内電車の便があるので、駅前から大学病院行きに乗つて、橋場停留場で下車すれば、其辺一帯が華かな花街である。貸座敷の許可地では無いが、さればとて検番制度でも無い。金沢百万石と云ふ偉大なる力が、斯うした芸妓とも娼妓とも付かない一種変態的な物を生んだものと思はれる。但し女は芸妓の鑑札を所持して居る。中には二枚の女も居る。妓楼は料理屋と云ふ看板か、又は待合茶屋と看板が出て居る。料理屋の看板は出て居ても調理をしない家が沢山あって、七分通り迄は皆他店から取寄せて居る。業態は総て貸座敷と同様の事をやるのであるが、一寸茲の制度は変って居る。即ち自宅で抱へて置く芸妓でも、芸妓と云ふ芸妓は全部組合事務所に奇遇して居り、食事丈けは抱主の許でする事に成って居るので、全部送り込み制の形式を取って居る。事務所では芸妓達を集めて、三味線は杵屋六左衛門の流れ、舞踊は藤間勘十郎の流れ、鳴物は望月朴清の流れの師匠を招いて盛んに芸を仕込ん で居る。料理屋では一切席料は取らない。玉代(線香代)は二時間一座敷二円四十銭、一時間毎に一円二十銭宛増して行き、一時間に満たざる端数も一時間として計算する。遊興税は全部の消費額の約百分の十四である。現在同業者は三十八軒、芸妓九十名程居る。其れに主計町は、ふりの客は揚げないと云ふ悪い習慣があるので、非常に土地の発展を阻害して居る。猶金沢市には、主計町の他に、「東廓」、「西廓」、「北廓」、「愛宕」、「石坂」等の遊廓がある。

(組合員)

(待合茶屋)

(料理屋)