古市遊廓

古市遊廓は山田駅から東南約十六町位あり乗合自動車賃三十五銭である。又外に普通「馬動車」と言はれて居る乗物があつて古自動車に類た車を馬に曳かせて、袢天着の雲助然とした運転手が掛声と一所に道を走つて行くので此れが一番気分が出る。昔は遊女屋が軒を並べて、その店先には大きな茶釜が据えてあつた。そして勅使参向や代参通行の節には娼妓が赤前垂をかけて店頭に整列して迎へたものだ。油屋のお紺は死んでもその名を恋ふて集ひ寄る人々は今でも「お紺の間」を見物に来る相だ。油屋は現在旅館に早変りをして了つたが此のお紺の間のある為めに相当繁昌して居る。遊興制度は新古市に略同じ程度である。「伊勢音頭」元は大店の各妓楼で行はれ娼妓の親見世として成されて居つたものであつたが、現在では一定の料虹を取つて観覧に供して居る。