音戸町遊廓

音戸町遊廓は広島県安芸郡倉橋島音戸町字音戸町に在って、山陽呉線呉駅で下車し音戸行きの小蒸気船に乗れば海上四十分賃二十銭。広島から行けば海上一時間半賃四十銭。倉橋島は元一地峽を為して本州と続いて居たものを、平清盛が海運の便を計る為めに開鑿したもので、瀬戸の峽い事に於ては日本一である。従つて潮流の速い事も日本一で「船頭かはいや音頭が瀬戸で、一丈五尺の櫓がしわる」と云ふ船頭唄が土地に在ると云ふ通りだ。音戸には平清盛の塚があつて、此の辺一帯が瀬戸内海での勝地と成つて居る。鏡の様な海面に浮ぶ大小様々な島々をうつとりと眺め乍ら、呉広島辺からも態々船で此処の遊廓迄遠征にやつて来る人も多い。昔は関西に於ける六大港の一つだつたので、船で旅行する人は必ず茲に休んだものだつた。従つて遊女も余程昔から居たものらしいが、時代は判明して居ない。遊廓制に成つたのは明治三十八年で、現在貸座敷が八軒あり、娼妓は八十五人居る。福岡県熊本県の女が多い。店は写真式で陰店は張つて無い。娼妓は居稼ぎ制で送り込みはやらない。遊興は通し花制で廻しは取らない。費用は午後六時から翌朝七時迄の一泊が五円で、短時間(一時間)遊びが二円五十銭である。台の物は含んで居ない。娼楼には第二大黒楼、高瀬楼、清月楼、久保楼、常盤楼、田中楼、寿楼、大正楼等がある。