島根県の部

松江遊廓

松江遊廓は島根県松江市和田見(わだみ)に在って、和田見遊廓、又は新地遊廓とも云つて居る。山陰線松江駅で下車すれば北へ約二丁、大橋を渡れば直ぐである。松江市は、中ノ海と宍道湖との間にあって山紫水明誠に絵の様に美くしい水の都である。殊に湖水と中ノ海とを連絡する運河に架って居る大橋の景色は最も優れて居る。茲には松平氏の旧松江城があって、五層の天主閣が聳えて居る。天主閣は誰でも観覧する事が出来て、市の甕より宍道湖畔一帯、中ノ海より出雲富士にかけての眺望が何とも云へない。市の附近には乃木大将の生れた乃木村があつて、佐々木高綱の墓があり、潜戸には神窟と八重垣神社とがある。茲の遊廓には現在貸座敷(揚屋)が三十八軒あって、娼妓が六十五人、芸妓が四十五人居る。店は陰店式に成って居て、娼妓は総て屋方(置屋)から貸座敷の方へ呼んで遊ぶ、詰り大阪式の送り込み制である。従って娼妓にも検番がある。遊びは総て時間制で廻しは絶対に取らない。花代は一時間二円、席料三十銭、仕切は朝から夕影迄五円七十銭(席料共)一泊は六円三十銭、半夜(十二時迄)は四円四十銭、午前二時以後は三円三十銭(席料共)と云ふ事に成って居る。又既に他の客へ出て居る娼妓を自席へ呼ぶには、一本三十銭の増花をつける。幾本でも無制限にっける事が出来る。此れを「たいこ」と云って居る。然し先の客が自分と同額を出す時は呼ぶ事が出来ない。又最初から五割の増花を附けて置けば、他の客から呼ばれる事が無い、此れを赤札と云つて居る。茲の娼妓は主に島根県下の者が多く。小太りの肉感的な女が多い。俚謡としては地場丈けに御馴染みの安来節や関の五本松が盛んである。妓楼は百々家、平尾、舟木、米江、喜久乃家、扇谷、月の家、杉乃家、めづき、舟越、今岡、山岡、大阪家、恵比須家、大和家、安田、竹元、坂本、笑乃家、雪乃家、三浦、伊勢宮、福村、潮崎、小金楼、井筒楼、だるま、新庄楼、森岡、大正楼、とんだや、植田、山崎、栗田、日の出、新開楼、余村、浪花家。

浜田町下山遊廓

浜田町下山遊廓は島根県那賀郡浜田町下山にあって、鉄道は山陰線浜田駅で下車し西方へ約廿四町の所にある。貸座敷の軒数は九軒、娼妓は四十八名居て、大概陰店を張ってゐる。遊興は大阪式時間制になって居て客の廻しは取らない。一泊が一切含み五円六十銭位、一時間遊びは一円五十銭位である、中には二枚鑑札の者も居る。台の物は附かない但し芸妓も娼妓も大阪式の送り込み制である。妓楼は、金波楼、下山楼、翠月楼、錦栄楼、亀鶴楼、二葉楼、角海老楼、常磐楼、いろは楼、の九軒。