道後湯之町松ヶ枝遊廓

道後湯之町松ヶ枝遊廓は愛媛県温泉郡道後町字湯之町に在つて松ヶ枝遊廓と称して居る。伊予松山市と相距ること十余丁に過ぎない上に、道後と松山との連絡電車がある。省線松山駅で下車して道後行の電車に乗り、道後停留場(道後駅と云ふ)で下車すれば東へ約二丁の処に位して居る。道後の町は昔から日本一の湯の町として有名な処丈けに大古時代からの遺跡が数へ切れない程此処には残つて居る。泉質も善く、熱度も高く、湧出量も豊富なので、年々湯治客が殺到して町は素晴らしい繁昌振りである。其れ故町の隅々迄も遊山気分が堪溢して、殊に花柳界には新開町の様な活気とざわめきがある此処の遊廓は元湯女と称して、温泉旅館の女中が客に淫を売つて居たものであるが、風紀を取締る必要上、明治十一年に現在の遊廓が許可された訳であっち現在は同業者が二十九軒あつて、内四軒丈けは居稼ぎ制で、他の二十五軒は全部送り込み制である。娼妓の過半数は二枚鑑札で、酒席へは旅館からも呼ぶことが出来る。従って芸娼妓は全部検番制に成って居る。貸座敷には写真も出て居なければ、陰店にも成って居ない。貸座敷の方から屋形ヘ口を掛けて娼妓を呼ふのである。一泊が台付九円四十五銭(税共)で、外に二時間遊びが四円五十銭(税共)と云ふのがある。何れも廻しは絶対に取らない。娼妓は全部で六十三人居る。妓楼は、朝日楼、新開進楼、夢の家、相生楼、松竹楼、幸楼、月見楼、千歳楼、大岩楼、大紋楼、魚付楼、昭和楼、開華楼、菊水楼、大正楼、好晴楼、明治楼、松鶴楼、一藤楼、稲葉楼、開進楼、初音楼、梅木楼、友声楼、清月楼、岡猪楼、永楽楼、泉五楼、松月楼、等である。